中小物流会社が配車・運行計画にAIを使った話【ベテラン頼みの配車をどう変えたか】

中小物流会社が配車・運行計画にAIを使った話【ベテラン頼みの配車をどう変えたか】 AI活用術
Photo by Igor Omilaev on Unsplash

配車表は、ベテラン1人の頭の中にしかなかった。

中小の運送・物流会社で「配車」は心臓部だ。どの車に、どのドライバーを、どの順番で、どのエリアへ割り当てるか。これを毎朝決めないと1日が回らない。だが多くの中小物流会社で、この配車は特定のベテランの経験と勘に依存している。私の会社(従業員30名)もそうだった。その人が休むと配車が止まる。これが長年の不安だった。

この属人化した配車に、AIを使い始めた。AIに完全自動化させたわけではない。配車の「たたき台」をAIに作らせ、ベテランが最終調整する形にした。結果、配車にかかる時間が短くなり、何よりベテラン以外の社員でも配車の見当がつけられるようになった。この記事では、何をどうAIにやらせたか、実際のプロンプト、そしてAIに任せられること・任せられないことの線引きを、実体験で書く。


配車が「ベテランの頭の中」に依存していた問題

配車の何が難しいのか。単に荷物を車に割り振るだけではないからだ。

車両の大きさ(2t・4t・大型)と荷物量の相性、ドライバーごとの担当エリアの土地勘、時間指定のある配送先の順番、高速を使うか下道か、ドライバーの拘束時間の上限——これらを同時に満たす組み合わせを、毎朝つくる。ベテランは長年の経験でこれを数十分でこなすが、その判断基準は言語化されていない。だから引き継げない。

属人化のリスクは2つ。1つは、その人が休む・辞めると配車が回らなくなること。もう1つは、その人のやり方が「本当に最適か」を誰も検証できないこと。経験は貴重だが、ブラックボックスでもある。

紙やFAXで届く配送依頼をまずデータ化する流れは、物流業界でRPAを導入した事例【コスト削減と業務効率化の実例】で書いた仕組みと地続きで、その「データ化された配送情報」をAIに渡すのが今回の話だ。


AIに配車の「たたき台」を作らせてみた

最初から100%自動化は狙わなかった。狙うと、1つの例外(イレギュラーな時間指定など)で全体が崩れ、結局使えなくなる。だから「人が確認する前提のたたき台」をAIに作らせる方針にした。

やったことはシンプルだ。その日の配送先・荷物量・時間指定と、自社の車両・ドライバーの情報をAIに渡し、「条件を満たす配車案を作って」と頼む。AIは候補を出す。ベテランはそれを見て「この順番は道が混むから逆」「この客は時間にうるさいから先に」と微調整する。ゼロから組むより、たたき台を直すほうが速い。

効果は2つあった。1つは時間短縮。ゼロから配車表を作るより、AI案を直すほうが速く、配車にかける時間が体感で短くなった。もう1つが大きい。たたき台があることで、ベテラン以外の社員も「なぜこの配車になるか」を考えられるようになった。AIが出した案に理由が添えられているので、それが教材になった。属人化が少しずつほどけた。


実際に使ったプロンプト

私が配車のたたき台づくりに使っているプロンプトを公開する。実際の取引先名・住所などはAIに渡さず、エリアや記号に置き換えて使っている(社外秘情報の扱いは後述)。

あなたは運送会社の配車担当です。以下の条件で、本日の配車案(たたき台)を作ってください。

【車両】
・2tトラック ×2台 / 4tトラック ×2台 / 大型 ×1台

【ドライバー】
・A〜Eの5名。AとBはエリア北に詳しい、Cは大型のみ、DとEは終日可

【本日の配送】
・エリア北:10件(うち2件が午前時間指定)
・エリア南:8件(うち1件が14時必着)
・エリア東:5件

【守ってほしい条件】
1. 時間指定を最優先で満たす
2. 1台あたりの件数が偏りすぎないようにする
3. ドライバーの得意エリアをなるべく活かす
4. 各案に「なぜそう割り当てたか」の理由を1行で添える

最適化しすぎず、人が後で調整する前提の「たたき台」として出してください。

ポイントは2つ。「理由を1行で添える」と指示すること。これがあると、配車に不慣れな社員でも判断の根拠を学べる。もう1つは「人が後で調整する前提のたたき台」と縛ること。完璧な最適解を求めると、AIが現実離れした案を出すことがあるからだ。


AIにできること・できないこと

1年近く使ってわかった、線引きを正直に書く。

AIにできることは、条件を整理して「ありえる配車案を素早く出す」ことだ。件数の偏りを避ける、時間指定を優先する、といった機械的な制約の処理は得意で、ゼロから組む手間を大きく減らす。

AIにできないこともはっきりある。「あの客は機嫌を損ねると面倒」「あの道は雨だと渋滞する」「あのドライバーは今週疲れている」——こうした数字にならない現場知は、AIには渡しきれない。ここはベテランの判断が要る。だからAIは「たたき台まで」で、最終決定は人がやる。この役割分担を崩すと事故る。

AIに任せていい仕事・人が判断すべき仕事の線引きの考え方は、中小企業のAI活用で絶対に外せないプロンプト10選【コピペOK】の発想を配車にも当てはめている。便利だからと全部任せるのではなく、AIの守備範囲を決めて使うのが定着のコツだ。

なお、配送依頼に含まれる取引先名・住所・数量・納期などの具体的な業務情報は、外部AIにそのまま渡さないルールにしている。エリアや記号に置き換える、社内で完結する環境を使うなど、情報の扱いは慎重に決めるべきだ。


配車AIを現場に定着させる進め方

ツールを入れても、現場が使わなければ意味がない。私が踏んだ順番はこうだ。

最初の数週間は、ベテランが普段どおり配車したものと、AIが出したたたき台を並べて見比べた。「AI案のここは使える」「ここはダメ」を毎日確認し、プロンプトの条件を少しずつ足していった。いきなり本番に使わず、答え合わせの期間を置いたことで、現場がAIの精度を信用できるようになった。

次に、ベテランが「AI案を直す」運用に切り替えた。ゼロから組むのをやめ、たたき台前提にした。ここで時間短縮が効いてくる。最後に、若手にも「AI案を見て調整案を出す」練習をさせた。これが属人化解消につながっている。

物流現場のDXをどの順番で進めるかは物流・製造業向けDXツールの選び方【現場担当者の視点で比較10選】も参考になる。配車のような重要業務ほど、いきなり全自動を狙わず「人+AI」で段階的に変えるのが安全だ。


よくある質問(FAQ)

Q. 配車を完全にAIで自動化できますか?

A. 中小物流会社の現場では、完全自動化はおすすめしません。配車には「あの客は時間にうるさい」「あの道は雨に弱い」といった数字にならない現場知が絡み、これをすべてAIに渡しきるのは難しいためです。現実的なのは、AIに条件を満たす「たたき台」を作らせ、ベテランが最終調整する「人+AI」の形です。これなら時間短縮と属人化解消の両方が得られ、イレギュラーにも対応できます。

Q. 専用の配車システムを買わなくてもAIで配車できますか?

A. 高機能な配車最適化システムは効果的ですが高価で、中小企業には導入ハードルがあります。一方、対話型AI(ChatGPT・Claude等)に車両・ドライバー・配送条件を渡して「たたき台」を作らせるだけなら、月数千円のプランで始められます。まずAIで配車のたたき台づくりを試し、効果を確認してから専用システムを検討する、という順番が中小企業には現実的です。

Q. 配車情報をAIに渡すとき、取引先の情報は大丈夫ですか?

A. 取引先名・住所・数量・納期などの具体的な業務情報は、外部のAIサービスにそのまま渡さないことを強くおすすめします。エリア名や記号に置き換える、社内で完結する環境を使うなど、社外秘情報が外部に出ない形で利用してください。AIに渡すのは「北エリア10件・うち2件午前指定」のような抽象化した条件にとどめ、具体的な顧客情報は社内で突き合わせる運用が安全です。


まとめ

中小物流会社が配車・運行計画にAIを使った実体験のポイントをまとめる。

  • 配車の属人化(ベテランの頭の中依存)は中小物流の長年のリスク——AIで「たたき台」を作らせて緩和できる
  • 完全自動化は狙わず「人が調整する前提のたたき台」をAIに作らせるのが現実的
  • プロンプトに「割り当ての理由を1行添える」と指示すると、若手の教材にもなり属人化が解ける
  • AIは条件処理が得意・現場知は苦手——最終決定は人がやる役割分担を崩さない
  • 取引先の具体情報は外部AIに渡さず、エリア・記号に抽象化する

配車はベテランの勘に頼りきりになりがちだが、AIにたたき台を作らせるだけで「その人が休んだら止まる」状態から一歩抜け出せる。まずは1日分の配送条件を抽象化してAIに渡し、たたき台を出させて、いつもの配車と見比べることから始めてほしい。


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本記事の情報は2026年6月時点のものです。

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