配車表は、ベテラン1人の頭の中にしかない——中小の運送・物流会社で、これはよくある話だ。
配車は物流会社の心臓部だ。どの車に、どのドライバーを、どの順番で、どのエリアへ割り当てるか。これを毎朝決めないと1日が回らない。だが多くの中小物流会社で、この配車は特定のベテランの経験と勘に依存している。その人が休むと配車が止まる。委託先の運送会社と話していても、この不安は繰り返し話題になる。
先に立場を書いておく。私の会社は倉庫業が主体で、運送は利用運送(委託)のみ。つまり配車の実務は自社にはない。この記事は、委託先の運送会社と日々やり取りする立場から、業界で標準的に語られている配車AI活用の方法——たたき台をAIに作らせ、人が最終調整する形——を整理したものだ。ただし「ベテランの頭の中にしかない情報の属人化」という課題そのものは、倉庫もまったく同じだ。私の会社では、現場の人間しか把握していなかった貨物のロケーション(どの荷物がどこにあるか)をWMSでDX化し、そのデータ取り込みにAIを使って解消した。人の頭の中にあった情報をシステムに移す、という同型の問題を実際に解いた経験から、属人化をほどく手順には確信がある。その視点で、配車AIの現実的な使い方を書く。
配車が「ベテランの頭の中」に依存する問題
配車の何が難しいのか。単に荷物を車に割り振るだけではないからだ。
車両の大きさ(2t・4t・大型)と荷物量の相性、ドライバーごとの担当エリアの土地勘、時間指定のある配送先の順番、高速を使うか下道か、ドライバーの拘束時間の上限——これらを同時に満たす組み合わせを、毎朝つくる。ベテランは長年の経験でこれを数十分でこなすが、その判断基準は言語化されていない。だから引き継げない。
属人化のリスクは2つ。1つは、その人が休む・辞めると配車が回らなくなること。もう1つは、その人のやり方が「本当に最適か」を誰も検証できないこと。経験は貴重だが、ブラックボックスでもある。これは配車に限らない。私の会社の倉庫でも、貨物のロケーションは「現場のあの人に聞けばわかる」状態が長く続いていた。構造は同じだ。
紙やFAXで届く配送依頼をまずデータ化する流れは、物流業界の業務自動化の事例【RPA・AI導入でコスト削減した実例】で書いた仕組みと地続きで、その「データ化された配送情報」をAIに渡すのが今回の話だ。
AIに配車の「たたき台」を作らせるという考え方
最初から100%自動化を狙わないのが定石だ。狙うと、1つの例外(イレギュラーな時間指定など)で全体が崩れ、結局使われなくなる。だから「人が確認する前提のたたき台」をAIに作らせる方針が現実的とされている。
やることはシンプルだ。その日の配送先・荷物量・時間指定と、車両・ドライバーの情報をAIに渡し、「条件を満たす配車案を作って」と頼む。AIは候補を出す。ベテランはそれを見て「この順番は道が混むから逆」「この客は時間にうるさいから先に」と微調整する。ゼロから組むより、たたき台を直すほうが速い——これがこの方式の基本原理だ。
期待できる効果は2つある。1つは時間短縮。ゼロから配車表を作るより、AI案を直すほうが速くなることが期待できる。もう1つのほうが大きい。たたき台があることで、ベテラン以外の社員も「なぜこの配車になるか」を考えられるようになる。AIが出した案に理由が添えられていれば、それ自体が教材になり、属人化が少しずつほどけていく。
この「頭の中の判断をいったん外に出して、見える形にする」効果は、私が倉庫のロケーション管理をDX化したときに実感したものと同じだ。ベテランの頭の中にしかなかった情報がシステムに載った瞬間、他の社員が同じ情報を見て判断できるようになり、教える・引き継ぐのが一気に楽になった。配車のたたき台方式が属人化に効くとされる理屈は、これと同型だと考えている。
配車たたき台プロンプトの設計例
配車のたたき台づくりに使えるプロンプトの設計例を示す。実際の取引先名・住所などはAIに渡さず、エリアや記号に置き換えて使うことが前提だ(社外秘情報の扱いは後述)。
あなたは運送会社の配車担当です。以下の条件で、本日の配車案(たたき台)を作ってください。
【車両】
・2tトラック ×2台 / 4tトラック ×2台 / 大型 ×1台
【ドライバー】
・A〜Eの5名。AとBはエリア北に詳しい、Cは大型のみ、DとEは終日可
【本日の配送】
・エリア北:10件(うち2件が午前時間指定)
・エリア南:8件(うち1件が14時必着)
・エリア東:5件
【守ってほしい条件】
1. 時間指定を最優先で満たす
2. 1台あたりの件数が偏りすぎないようにする
3. ドライバーの得意エリアをなるべく活かす
4. 各案に「なぜそう割り当てたか」の理由を1行で添える
最適化しすぎず、人が後で調整する前提の「たたき台」として出してください。
設計のポイントは2つ。「理由を1行で添える」と指示すること。これがあると、配車に不慣れな社員でも判断の根拠を学べる。もう1つは「人が後で調整する前提のたたき台」と縛ること。完璧な最適解を求めると、AIが現実離れした案を出すことがあるからだ。
AIにできること・できないこと
配車AIの線引きとして一般に言われていること、そして私自身が倉庫業務でAIを使ってきて納得している線引きを書く。
AIにできることは、条件を整理して「ありえる配車案を素早く出す」ことだ。件数の偏りを避ける、時間指定を優先する、といった機械的な制約の処理は得意で、ゼロから組む手間を減らすことが期待できる。
AIにできないこともはっきりある。「あの客は機嫌を損ねると面倒」「あの道は雨だと渋滞する」「あのドライバーは今週疲れている」——こうした数字にならない現場知は、AIには渡しきれない。ここはベテランの判断が要る。だからAIは「たたき台まで」で、最終決定は人がやる。この役割分担を崩すと事故る、というのが業界で共通して語られる注意点だ。
AIに任せていい仕事・人が判断すべき仕事の線引きの考え方は、中小企業のAI活用で絶対に外せないプロンプト10選【コピペOK】で書いた発想が配車にもそのまま当てはまる。便利だからと全部任せるのではなく、AIの守備範囲を決めて使うのが定着のコツだ。
なお、配送依頼に含まれる取引先名・住所・数量・納期などの具体的な業務情報は、外部AIにそのまま渡さないルールにすべきだ。エリアや記号に置き換える、社内で完結する環境を使うなど、情報の扱いは慎重に決める必要がある。これは私の会社でも、WMSのデータをAIで扱う際に同じ方針を貫いている。
配車AIを現場に定着させる進め方
ツールを入れても、現場が使わなければ意味がない。標準的に推奨される進め方はこうだ。
最初の数週間は、ベテランが普段どおり配車したものと、AIが出したたたき台を並べて見比べる。「AI案のここは使える」「ここはダメ」を毎日確認し、プロンプトの条件を少しずつ足していく。いきなり本番に使わず、答え合わせの期間を置くことで、現場がAIの精度を信用できるようになる。
次に、ベテランが「AI案を直す」運用に切り替える。ゼロから組むのをやめ、たたき台前提にする。ここで時間短縮が効いてくるはずだ。最後に、若手にも「AI案を見て調整案を出す」練習をさせる。これが属人化解消につながる。私が倉庫のロケーションDXを進めたときも、いきなり全面切り替えではなく「現場の記憶とシステムの答え合わせ」から始めた。人の頭の中とシステムの出力を並走させる期間を置くのは、業種を問わず属人化をほどく際の要諦だと考えている。
物流現場のDXをどの順番で進めるかは物流・製造業向けDXツールの選び方【現場担当者の視点で比較10選】も参考になる。配車のような重要業務ほど、いきなり全自動を狙わず「人+AI」で段階的に変えるのが安全だ。また、配車と並んで毎日蓄積される運行管理のデータが点呼記録だ。体調・睡眠申告の傾向を配車や休日の組み方に活かす方法は運送会社の点呼記録をAIで活用する方法【記録簿の傾向分析・監査前チェック・安全教育への展開】で解説している。
よくある質問(FAQ)
Q. 配車を完全にAIで自動化できますか?
A. 中小物流会社の現場では、完全自動化はおすすめしません。配車には「あの客は時間にうるさい」「あの道は雨に弱い」といった数字にならない現場知が絡み、これをすべてAIに渡しきるのは難しいためです。現実的なのは、AIに条件を満たす「たたき台」を作らせ、ベテランが最終調整する「人+AI」の形です。これなら時間短縮と属人化解消の両方が期待でき、イレギュラーにも対応できます。
Q. 専用の配車システムを買わなくてもAIで配車できますか?
A. 高機能な配車最適化システムは効果的ですが高価で、中小企業には導入ハードルがあります。一方、対話型AI(ChatGPT・Claude等)に車両・ドライバー・配送条件を渡して「たたき台」を作らせるだけなら、月数千円のプランで始められます。まずAIで配車のたたき台づくりを試し、効果を確認してから専用システムを検討する、という順番が中小企業には現実的です。
Q. 配車情報をAIに渡すとき、取引先の情報は大丈夫ですか?
A. 取引先名・住所・数量・納期などの具体的な業務情報は、外部のAIサービスにそのまま渡さないことを強くおすすめします。エリア名や記号に置き換える、社内で完結する環境を使うなど、社外秘情報が外部に出ない形で利用してください。AIに渡すのは「北エリア10件・うち2件午前指定」のような抽象化した条件にとどめ、具体的な顧客情報は社内で突き合わせる運用が安全です。
まとめ
中小物流会社が配車・運行計画にAIを使う方法のポイントをまとめる。
配車はベテランの勘に頼りきりになりがちだが、AIにたたき台を作らせる形なら「その人が休んだら止まる」状態から一歩抜け出す道筋が見える。頭の中の情報を外に出してシステムに載せれば属人化はほどける——これは私が倉庫のロケーション管理で実際に確かめたことだ。まずは1日分の配送条件を抽象化してAIに渡し、たたき台を出させて、いつもの配車と見比べることから始めてほしい。
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本記事の情報は2026年6月時点のものです。
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この記事の筆者は従業員30名の物流会社社長。コードを1行も書かずに、AIだけで社内の仕組みづくりと副業を進めてきた過程を、収益ゼロの月や失敗談も含めてそのままnoteに記録している。

静岡県で倉庫会社を経営しています。年商4億円・従業員30名・創業55年のザ・中小企業です。
大学はアメリカ(カリフォルニア州立大学ノースリッジ校)で運動生理学を専攻して2009年卒業。卒業後は外資系医療機器メーカーで営業職として働いていましたが、14年前に家業に入社。課長・部長・専務取締役を経て、2年前に社長に就任しました。
AI活用を始めたのは約3年前。紙・Excel・電話だけで回っていた倉庫業の現場をなんとかしたいと思ったのがきっかけです。それからClaude・ChatGPTを中心に、実際の業務改善で毎日試行錯誤しています。
コンサルでも研究者でもない「普通の中小企業の社長がAIを使ってみたリアル」を発信しています。
モットーは「人生を最大限楽しむ」。好きな言葉は「生きてるだけで丸儲け」。


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