「うちみたいな中小の物流会社でDXって本当にできるのか?」
私自身がずっと思っていたことです。私は静岡で倉庫業を営む物流会社の現役社長です。運送部門は持たない「利用運送」の会社なので、トラックの自動配車やスマートロッカーのような派手な話はできません。それでも、倉庫の現場と事務所の仕事は、ここ数年で確実に変わりました。
この記事の要点: 中小の物流会社でも、①自社独自のWMS(倉庫管理システム)の開発、②FAXで届く情報の転記作業のAI自動化、③AIで内製した受付システム、という3つの取り組みで現場は変えられます。この記事に書くのは、私の会社で実際にやったことだけです。効果を盛った数字は出しません。確認できている数字だけを書き、それ以外の効果は「実感」として正直にお伝えします。
物流業界がDXを進めるべき理由
物流業界は特にDXの必要性が高い業界だと感じています。
理由①:人手不足が深刻
2024年問題(時間外労働の規制強化)をきっかけに、物流業界全体で人手の確保が難しくなっています。限られた人数で回すには、人がやらなくていい仕事を機械に渡すしかありません。
理由②:紙・FAX文化が根強い
物流の現場には、今でも紙とFAXが残っています。取引先や荷主の慣習に合わせる必要があるため、自社の都合だけでは廃止しきれないのが実情です。
理由③:ミスのコストが高い
誤出荷は顧客の信頼喪失に直結します。ヒューマンエラーが起きやすい工程をシステムで支えることは、品質と信頼の両方を守ることにつながります。
この3つは、そのまま私の会社が取り組んだ3つの事例に対応しています。順に紹介します。
事例1:約2,500万円かけて自社独自のWMSを開発した
なぜ市販のシステムではなく自社開発だったのか
倉庫会社の心臓部は在庫管理です。私の会社では2025年に、約2,500万円を投じて自社独自のWMS(倉庫管理システム)を開発し、現在も使い続けています。
中小企業がシステムに2,500万円を投じるというと、驚かれることが多いです。実際、月額数万円から使える市販のWMSやサブスク型の在庫管理SaaSはたくさんあり、私たちも当然その選択肢を検討しました。それでも自社開発を選んだ判断軸は3つです。
判断軸①:現場のオペレーションに合わせられるか
倉庫の仕事は荷主ごと・商材ごとにルールが違います。パッケージ製品に現場を合わせるのか、現場にシステムを合わせるのか。私たちは後者を選びました。「システムに合わせて現場のやり方を変える」ことのコストは、見積書には出てきませんが確実に存在します。
判断軸②:ランニング費用
サブスク型は初期費用が軽い代わりに、使い続ける限り月額費用がかかり続けます。長く使う前提で総額を比較すると、初期投資が大きくても自社開発が不利とは限りません。
判断軸③:保守の責任をどこに置くか
自社開発は「困ったときに直せる自由」と「自分たちで面倒を見る責任」がセットです。ここを引き受ける覚悟があるかどうかは、経営判断そのものだと思います。
導入後の変化:誤出荷は大幅に減った。ただしゼロではない
WMSを入れてから、誤出荷は大幅に減りました。
ただし、正直に書きます。ゼロにはなっていません。「誤出荷ゼロを実現」と書ければ格好いいのですが、人が荷物を扱う以上、ミスの可能性は残ります。システムの役割は、ミスが起きにくい仕組みを作り、起きたときに原因を追えるようにすることだと考えています。
DX事例の記事には「劇的な数字」が並びがちですが、現場の実感はもっと地味です。それでも、誤出荷のたびに謝罪と再発防止に追われていた状態から大幅に減ったことは、会社にとって大きな変化でした。
事例2:FAXで届く情報の転記作業をAIで自動化した
物流業界にFAXが残る理由
「まだFAXを使っているんですか」と言われることがあります。使っています。正確には、取引先との関係上、使わざるを得ない場面が残っています。
私自身、FAXを廃止する判断をした経験もあります。それでも、相手先の業務がFAX前提で回っている以上、こちらの都合だけで全部はなくせません。物流は自社だけで完結する仕事ではないからです。
「転記」は人がやる必要のない仕事
問題はFAXそのものより、FAXで届いた情報を人がシステムに打ち直す「転記」という作業です。紙を見ながら文字や数字を入力し直す。この作業に人の判断はほとんど介在しません。つまり、人がやる必要のない仕事です。
しかも転記は、単調な作業ほど間違いが起きやすいという性質を持っています。紙の数字を1桁打ち間違えるだけで、後工程に影響が波及します。人にとってはつらく、ミスも起きやすく、しかも判断を伴わない。自動化の優先順位としては最上位の仕事です。
そこで私の会社では、FAXで届く情報の転記作業をAIで自動化する仕組みを作りました。「FAXをなくす」のではなく「FAXの後ろにある手作業をなくす」という発想です。数千万円の投資だったWMSと違い、こちらはAIを使った身の丈の自動化です。DXというと大きなシステム投資を想像しがちですが、こうした小さな自動化の積み重ねも立派なDXだと考えています。
取引先に迷惑をかけずに、自社側の負担だけを取り除く。アナログな商習慣が残る業界のDXは、この順番が現実的だと思います。
事例3:コードが書けない社長がAIで受付システムを自作した
3つ目は、私が一番驚いた事例です。作ったのは私自身だからです。
私はプログラミングのコードが書けません。それでも、AIに日本語で「こういう受付システムが欲しい」と伝え、返ってきたものを試しては直しを繰り返して、受付システムを自作しました。
数年前なら、この規模のものでも開発会社への発注案件だったはずです。要件定義の打ち合わせをして、見積もりを取って、納品を待つ。それが今は、経営者が自分の手で、業務の合間に形にできてしまう。「システムは買うか外注するもの」という前提が崩れたことを、身をもって実感しました。
作る過程で気づいたのは、自社の業務を一番わかっている人間がそのまま作り手になれることの強さです。外注では「要件を言葉で正確に伝える」ことに大きなコストがかかりますが、自作ならその伝言ゲームがありません。欲しいものを欲しい人が作る。AIはそれを可能にするツールだと思います。
もちろん、事例1のWMSのような基幹システムと、受付システムのような周辺ツールは分けて考えるべきです。会社の心臓部は腰を据えて投資する。周辺の小さな道具は、AIでまず自作してみる。この使い分けが、今の中小企業には現実的な戦い方だと感じています。
ちなみに私の会社では、ほかにもAIが日常業務に入り込んでいます。会議の議事録はボイスメモを文字起こしして、Claudeで担当者が整えて作成しています。社内マニュアルの作成にもClaudeを使っています。経営企画チームでは、Claude Codeを「AI室長」と呼んで運用しています。どれも特別なスキルを持った担当者がいるわけではありません。
中小企業のDXで学んだ判断基準
3つの事例を通じて、私なりに固まった判断基準を共有します。
①大企業の真似をしない
報道される物流DXは、自動倉庫やロボティクスなど大企業の事例が中心です。あれをそのまま目指すと、費用感が合わずに何も始められません。自社の現場で毎日発生している面倒な作業を1つ見つけることが出発点です。
②全部を一気にやらない
課題は倉庫の中だけでもいくらでもありますが、あれもこれもと同時に手を広げると、現場がついてきません。1つ動かして、現場が回ることを確かめてから次に行く。DXは導入した瞬間ではなく、定着してから効果が出るものだからです。
③「買う・作る・AIで自作する」を使い分ける
基幹業務は投資として腰を据えて作る。既製品で十分な領域は買う。小さな道具はAIで自作を試す。すべてを1つの方法で解決しようとしないことが大事です。
④効果は正直に見る
「誤出荷ゼロ」「作業時間◯割削減」という言葉は魅力的ですが、自社で検証できていない数字を社内外に語り始めると、判断が歪みます。うまくいったこともいかなかったことも、そのまま見るのが結局一番の近道でした。
参考:中小物流会社が検討しやすいDXツールの種類と価格帯
ツール選定の入口として、種類と価格帯の一般的な目安だけ整理しておきます(効果は業務内容によって大きく変わるため、ここでは書きません)。
| 種類 | 価格帯の目安 |
|---|---|
| クラウド型WMS・在庫管理(サブスク) | 月額数万円〜 |
| WMSの自社開発・受託開発 | 数百万円〜数千万円 |
| AIアシスタント(Claude / ChatGPT等) | 無料〜月数千円/人 |
| RPA・業務自動化ツール | 月額数千円〜数万円 |
※料金は変動します。必ず各公式サイトで最新情報をご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 2,500万円の投資は中小企業には大きすぎませんか?
A. 金額だけを見れば大きな投資です。ただ、サブスク型のシステムも使い続ける限り月額費用が積み上がります。長期の総額、現場をシステムに合わせるコスト、保守の責任の3点で比較して、自社に合う方を選ぶのが本質だと思います。全社に自社開発を勧めるつもりはありません。
Q. 市販のWMSと自社開発は、どちらを選ぶべきですか?
A. 標準的なオペレーションで回る倉庫なら市販パッケージで十分な場合が多いはずです。荷主ごとの個別ルールが多く、システムに現場を合わせるコストが大きい場合は自社開発が選択肢に入ります。まず市販製品のトライアルで「合わない部分」を洗い出すことをおすすめします。
Q. コードが書けなくても、本当にAIでシステムは作れますか?
A. 私はコードが書けませんが、受付システムを自作できました。ただし、作れることと、業務の根幹を任せられることは別です。基幹システムは相応の投資と体制で作り、まずは小さな周辺ツールからAIでの自作を試すのが現実的です。
Q. FAXは廃止すべきですか?
A. 自社だけで完結する業務なら廃止を検討すべきですし、私も廃止の判断をした経験があります。ただ、取引先の業務がFAX前提の場合は無理になくせません。その場合は「FAXの後ろにある転記などの手作業を自動化する」方が現実的です。
Q. DXを何から始めればいいですか?
A. 「人がやる必要のない仕事」を1つ見つけることからです。転記・清書・集計のような、判断を伴わない作業が狙い目です。いきなり基幹システムに手を付けるより、小さく始めて社内に成功体験を作る方が定着します。
Q. IT導入補助金は物流会社でも使えますか?
A. 使えます。IT導入補助金は業種を問わず申請できます。ただし対象となるのは「IT導入支援事業者」として認定された企業のツールに限られるため、検討中のシステム会社が認定事業者かどうかを先に確認してください。
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まとめ
中小物流会社のDXについて、私の実体験から言えることは次のとおりです。
DXは特別なことではありません。今日の業務の中で「これ、毎回面倒だな」と感じた作業が、あなたの会社のDXの出発点です。
📓 筆者の実録noteマガジン
この記事の筆者は従業員30名の物流会社社長。コードを1行も書かずに、AIだけで社内の仕組みづくりと副業を進めてきた過程を、収益ゼロの月や失敗談も含めてそのままnoteに記録している。
本記事の情報は2026年9月時点のものです。ツールの料金・機能は変更になる場合があります。最新情報は各公式サイトでご確認ください。
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静岡県で倉庫会社を経営しています。年商4億円・従業員30名・創業55年のザ・中小企業です。
大学はアメリカ(カリフォルニア州立大学ノースリッジ校)で運動生理学を専攻して2009年卒業。卒業後は外資系医療機器メーカーで営業職として働いていましたが、14年前に家業に入社。課長・部長・専務取締役を経て、2年前に社長に就任しました。
AI活用を始めたのは約3年前。紙・Excel・電話だけで回っていた倉庫業の現場をなんとかしたいと思ったのがきっかけです。それからClaude・ChatGPTを中心に、実際の業務改善で毎日試行錯誤しています。
コンサルでも研究者でもない「普通の中小企業の社長がAIを使ってみたリアル」を発信しています。
モットーは「人生を最大限楽しむ」。好きな言葉は「生きてるだけで丸儲け」。


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