採用は経営者の仕事の中でも特に時間がかかる。求人票の作成、応募者への連絡、書類選考、面接のスケジュール調整、面接の実施、採用可否の判断——この繰り返しが、本業の合間にじわじわと時間を奪っていく。
最初に正直に書いておく。私は静岡で倉庫会社を経営している(従業員30名・倉庫業主体で、運送は委託のみ)。採用は年間数名——倉庫スタッフ、事務、管理職などだ。大量採用の会社ではないし、採用専任の担当者を置けるような規模でもない。
そして、採用実務でAIを実際に使って回しているのは、現時点では応募者への返信文(用途別テンプレート)だけだ。ただ、これだけでも採用連絡にまつわる心理的な負担と作業時間が明確に減った。とくに不採用通知のように「書くのが気重で後回しにしがちな連絡」が、テンプレートのおかげで淡々と処理できるようになったのは大きい。
一方で、求人票のたたき台づくりや面接質問リストへの拡張は、まだ実施していない。ただ、Claudeを毎日の文書作成や壁打ちに使ってきた経験から「採用のこの工程なら、こう使えるはずだ」という手順は具体的に設計できる。この記事では、実際にやっていること(返信文テンプレート)と、日常のAI利用経験をもとに設計した手順(求人票・面接質問など)を区別しながら公開する。
AIを採用活動のどこに入れるか(全体像)
採用フローと、AIが効く工程
小さな会社の採用フローはだいたいこうなる。
求人票作成
→ 求人媒体への掲載
→ 応募者対応・日程調整
→ 書類選考
→ 面接(複数回のことも)
→ 採用可否の検討
→ 採用通知・条件交渉
このうち、AIが効くのは「文章を書く工程」と「基準を整える工程」だ。
逆に、書類選考の合否判断や面接評価そのものをAIに任せるのはNGだ。理由は後述する。
【実話】応募者への返信文はAIテンプレートで回している
うちで実際に運用しているのがこれだ。年間数名の採用でも、応募者への連絡は選考の各段階で発生する。書類選考の結果連絡、面接日程の調整、確定連絡、内定通知——1通1通は短いメールだが、毎回ゼロから書くと地味に時間を食う。
それ以上に大きいのが心理的な負担だった。とくに不採用通知は、失礼があってはいけないし、かといって余計なことを書いて誤解を招いてもいけない。文面に悩んで後回しにし、応募者を待たせてしまう——これが一番よくないパターンだ。
そこで、パターン別の返信テンプレートをClaudeに一括作成してもらった。実際に使ったプロンプトの型がこれだ。
採用担当者として、以下のシーンで使う返信メールのテンプレートを作成してください。
丁寧だがくどくない文体で。
①書類選考通過の連絡(面接日程の調整依頼を含む)
②書類選考の不採用通知(理由は書かない)
③面接日程の確定連絡
④最終選考の不採用通知(お礼を込めて)
⑤内定通知(詳細は別途連絡)
一度作れば、あとは日付と宛名を差し替えるだけで使い回せる。運用のコツは3つある。
もうひとつ、運用しながらテンプレートを「育てる」ことも大事だ。実際に送ってみて「この一文は硬すぎた」「面接日程の候補は最初から3つ提示したほうが往復が減る」と気づいたら、その場でテンプレート側を直しておく。次の採用のときには、前回より完成度の高い定型文からスタートできる。ゼロから作る作業は最初の一度だけで、あとは改善の積み重ねになる。
効果を数字で測っているわけではないが、体感ははっきりしている。返信文で手が止まることがなくなり、応募者への連絡が早くなった。採用のような「たまにしか発生しないが、発生すると気が重い業務」ほど、テンプレートの整備が効く。
なお、私は普段からClaudeを文書作成や壁打ちに使っていて、社内ではAI受付システムの自作やFAX転記の自動化もやってきた。その経験からいえるのは、AI活用は「毎日発生する業務」から入るより、こういう「定型化できるのに毎回悩んでいる業務」から入るほうが、小さな会社では成功体験を得やすいということだ。返信文テンプレートは、その最たる例だと思っている。
【設計編①】求人票のたたき台をAIに作らせる手順
ここからは、まだ自社では実施していないが、日常のClaude利用経験(文書作成・壁打ち)をもとに設計した手順だ。求人票は「白紙から書く」のが一番つらい工程なので、AIでたたき台を出す使い方が最も素直にはまるはずだ。
倉庫会社の求人票を作成してください。
【募集職種】倉庫スタッフ(ピッキング・仕分け)
【雇用形態】正社員
【給与】月給22万〜28万円(経験・能力により決定)
【勤務地】静岡県○○市
【勤務時間】8:00〜17:00(土日祝休み)
【仕事内容】食品・日用品の入出荷管理、ピッキング、棚卸し
【求める人物像】体力がある方、チームで働ける方、未経験歓迎
以下の形式で作成してください:
- 仕事内容(具体的に・箇条書き)
- 職場の魅力(3点)
- 求める経験・スキル(必須/あれば尚可)
- 一日の仕事の流れ
- 先輩社員からのメッセージ風の一文
ポイントは、条件を【】でひととおり渡してしまうことと、出力の形式を先に指定することだ。他の業務文書で同じ型を使ってきた経験からいえば、これでドラフトとして十分な骨格が返ってくる。あとは自社の実情に合わせて数字と固有名詞を修正し、法的な表現のチェック(後述)を人間がかければいい。
【設計編②】面接質問リストをAIに作らせる手順
面接が行き当たりばったりになるのは、質問を準備していないからだ。職種別の質問リストを先に作っておけば、誰が面接しても同じ観点で確認できる。
倉庫スタッフ(正社員)の面接で使う質問リストを作成してください。
確認したいポイント:
- 体力・持久力
- チームワーク・コミュニケーション能力
- 時間・ルール遵守の姿勢
- 長期就業の意向
- 前職の退職理由(ネガティブなケースの見極め)
1次面接用(30分想定):10問
2次面接用(社長面接・45分想定):8問
圧迫にならないよう、自然な会話の流れになる質問にしてください。
「確認したいポイント」を自社の言葉で書き出すところが本体で、質問文への展開はAIに任せる、という分担だ。
【設計編③】選考基準シートをAIで整備する
書類選考にAIを直接使うのはプライバシーの観点からNG。ただし「評価基準の整備」——つまり個人情報を含まない、モノサシづくりの部分——にはAIが役立つ。スクリーニングの実践手順(評価基準の適用・面接後の合否判断)は → AIで採用業務を効率化する方法
倉庫スタッフ(正社員)の書類選考基準を作成してください。
職務経歴書・履歴書を見て判断する項目:
- 即戦力度(物流・倉庫経験の有無)
- 継続性(前職の在籍期間)
- 基礎的な意欲(志望動機の有無と質)
- 基本条件の合致(勤務地・給与・就業時間)
A(優先面接)/ B(面接検討)/ C(不採用)の3段階で判断できる基準を作ってください。
出てきた基準をExcelの選考シートに落とし込めば、担当者が変わっても同じモノサシで選考できるようになる。選考のばらつきを減らし、後から振り返れる形にする——これが狙いだ。
採用活動でAIを使う際の注意点
①個人情報はAIに入力しない
応募者の氏名・住所・生年月日などをClaudeやChatGPTに入力するのはNG。プロンプトの作成や評価基準の整備に使い、個人情報の処理は人間が行う。
②面接評価は人間が行う
AIに「この人を採用すべきか」を判断させてはいけない。差別的な評価につながるリスクがある上、労働関係法規に抵触する可能性もある。AIはあくまで「質問の準備」「評価基準の整備」に使う。
③求人票の最終確認は必ず人間がする
AIが生成した求人票には、労働基準法に抵触する表現が含まれることがある(「残業なし」「週休3日」などの誇大表現など)。必ず人事担当者や社長がチェックする。
AI活用で狙う変化(設計の見取り図)
以下は「実測した効果」ではなく、各工程で何を狙うかの設計図だ。うちで実測できているのは返信文の行のみで、それも数値ではなく体感ベースであることを断っておく。
| 工程 | ありがちな課題 | AI活用で狙う状態 |
|---|---|---|
| 求人票作成 | 毎回ゼロから書いて消耗する | たたき台をAIが出し、人間は修正に集中 |
| 応募者への返信 | 文面に悩んで後回しになる | テンプレ活用で即返信(実運用中・体感で負担減) |
| 書類選考 | 担当者によって基準がバラバラ | 基準シートで統一・振り返り可能に |
| 面接の準備 | 行き当たりばったり | 質問リストで標準化 |
面接の質問が標準化されれば、ミスマッチの芽を面接段階で拾いやすくなるはずだ。入社後の定着側——退職の兆候の拾い方や1on1面談の質問づくり——のAI活用は中小企業の離職防止にAIを活用する方法【退職の兆候把握・面談の質・定着の仕組みづくり】にまとめている。
📣 求人を出しても応募が来ない中小企業に
Indeed・求人ボックスなど100種類以上の求人広告媒体を一括で扱い、自社に最適な出稿先を無料で提案してくれるサービス。媒体ごとに個別対応する手間なく、応募の母数を増やせます。求人広告の相談は無料です。
※本リンクはアフィリエイト広告です
まとめ
採用活動へのAI活用は、書類選考や採用判断そのものではなく、準備と標準化に使うのが正解だ。
年間数名の採用しかない会社でも、返信文のテンプレート化だけで「気が重くて後回しにする」時間は確実に減らせる。小さく始めて、求人票や面接準備へ広げていけばいい。
よくある質問(FAQ)
Q. 求人票作成でAIを使うとどのくらい時間が短縮されますか?
A. 一概には言えません。短縮幅は、元の作業のやり方(ゼロから書いていたのか、過去の求人票を流用していたのか)や、プロンプトにどこまで条件を渡せるかで大きく変わります。一般論としては「白紙から書き始める時間」をたたき台生成で置き換える効果が最も大きく、人間の作業は修正とチェックに寄せられます。条件を【】でまとめて渡すプロンプトを一度作っておけば、職種・給与・条件を差し替えて他の求人票にも使い回せます。
Q. 応募者の個人情報(氏名・住所など)をAIに入力してもいいですか?
A. NGです。応募者の氏名・住所・生年月日などの個人情報をClaudeやChatGPTに入力することは個人情報保護の観点から避けてください。AIは「求人票作成」「返信テンプレ作成」「評価基準の整備」「面接質問リストの作成」など個人情報が不要な業務に使い、個人情報の処理は人間が行います。
Q. AIを採用活動に使うと採用の質は下がりませんか?
A. 適切に使えば下がりません。採否判断・書類選考の合否決定をAIに任せるのではなく、評価基準の整備・面接質問の標準化にAIを活用する使い方であれば、担当者によるばらつきを減らす方向に働きます。判断そのものは必ず人間が行う——この線引きを守ることが、質を保つ前提条件です。
関連記事
本記事の情報は2026年5月時点のものです。
本マガジンはアフィリエイトを含む副業の実録です。収益・成果を保証するものではありません。副業・投資の判断はご自身の責任でお願いします。
本サイトはアフィリエイトプログラムを利用しています。
📓 筆者の実録noteマガジン
この記事の筆者は従業員30名の物流会社社長。コードを1行も書かずに、AIだけで社内の仕組みづくりと副業を進めてきた過程を、収益ゼロの月や失敗談も含めてそのままnoteに記録している。

静岡県で倉庫会社を経営しています。年商4億円・従業員30名・創業55年のザ・中小企業です。
大学はアメリカ(カリフォルニア州立大学ノースリッジ校)で運動生理学を専攻して2009年卒業。卒業後は外資系医療機器メーカーで営業職として働いていましたが、14年前に家業に入社。課長・部長・専務取締役を経て、2年前に社長に就任しました。
AI活用を始めたのは約3年前。紙・Excel・電話だけで回っていた倉庫業の現場をなんとかしたいと思ったのがきっかけです。それからClaude・ChatGPTを中心に、実際の業務改善で毎日試行錯誤しています。
コンサルでも研究者でもない「普通の中小企業の社長がAIを使ってみたリアル」を発信しています。
モットーは「人生を最大限楽しむ」。好きな言葉は「生きてるだけで丸儲け」。


コメント